生地に針が通り糸が抜ける音
ゆっくりと少しずつ変化していく様
触れたいと感じさせる奥ゆきやぬくもりを感じる素材感

私にとって刺繍は日々揺らぐ心をなだめてくれるものでした。

数年前のある日、猫を繍ってみようと思い、図案ではなく実在の子を刺繍してみました。ステッチや色に縛られず絵を描くように自由に繍う愉しさ、この世界に生きる唯一無二の命を表現する喜びを知りました。

同じ頃保護猫の姉妹を迎え、ますます針と糸で実在する動物を描くことの虜になっていきました。
2020年より受注制作を始め、これまでに80以上の子を制作しました。大切なご家族を、世界でたったひとつの刺繍に✴︎

立教大学文学研究科教育学専攻(美術教育) 修了

可能な限りのリスペクトを込めて、生き物の姿や佇まいを表現できたらと思います。下絵は描きこみ過ぎず、おおらかに。糸を画材に、毛の流れ・タッチ・配色・陰影などにこだわりながら描くように繍っています。
 
ひと作品には30-40色程の糸が使われています。
 25番刺繍糸という6本撚りの糸を1本ずつ引き抜いて使用します。すべて1本取りで小さな針目を積み重ねていきます。

塗り絵のように端から繍い埋めるのではなく、しっくりくる場所を探しながら針は野良犬や野良猫のように彷徨います。ブランド名noranuiは【nora=野良】【nui=刺繍】を意味し、また野良犬norainuのアナグラムでもあります。

1点ごとに制作には時間がかかりますが、心を込めて制作しています。緻密に、素朴に✴︎