刺繍を始めたのは2008年頃。
生地に針が通りぷつっ/しゅーっと糸が抜ける音。
ゆっくりと少しずつ変化していく様。
触れたいと感じさせる奥行きのある素材感。
日々揺らぐ心をなだめてくれるものでした。
時間をかけ様々な技法に触れる中、針と糸を画材のように感じるようになりました。
数年前のある日、猫の刺繍をしてみようと思い、図案ではなく写真を見て刺繍してみました。ステッチや色に縛られず絵を描くように自由に繍う愉しさ、この世界に生きる唯一無二の命を表現する喜びを、その時初めて知りました。
同じ頃保護猫の姉妹を迎え、ますます針と糸で実在する動物を描くことの虜になっていきました。2020年より受注制作を始め、これまでに70以上の子を制作しました。
大切なご家族を、世界でたったひとつの刺繍に✴︎
立教大学文学研究科教育学専攻(美術教育) 修了
生き物のありのままを損なわないように、可能な限りのリスペクトを込めて、その姿 佇まいを表現できたらと思っています。
下絵はあまり描きこみ過ぎず、おおらかに。糸を画材に、毛の流れ・タッチ・配色・陰影などにこだわりながら繍っています。
ひと作品には30色以上の糸が使われています。
25番刺繍糸という6本撚りの糸を1本ずつ引き抜いて使用します。すべて1本取りで小さな針目を積み重ねていきます。
塗り絵のように端から繍い埋めるのではなく、しっくりくる場所を探しながら針はまるで野良犬や野良猫のように彷徨います。ブランド名noranuiは【nora=野良】【nui=刺繍】を意味し、また野良犬norainuのアナグラムでもあります。
制作には長い時間がかかりますが、
手にした方や目にした方が、触れたくなるような抱きしめたくなるような作品をと願い、全身全霊を注ぎ制作しています。
あらゆる生き物は何者かにならなくても尊い。
緻密に、素朴に✴︎